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LEGO BIG MORL 6th full album『KEITH』SPECIAL INTERVIEW(前編)

半径5メートル以内にいる大事な人へ

 

―まず、「半径5メートル以内にいる大事な人へ」という今作のコンセプトについてお伺いさせてください。

タナカヒロキ(Gt):「半径5メートル」というフレーズは、前作『心臓の居場所』に入ってる“真実の泉”の歌詞から引っ張ってきました。
『心臓の居場所』を出して、ツアーもして、そこで自分たちが再確認させてもらったことが多くて。
やっぱりこの時代、漠然と「1人でも多くの人に届いてほしい」と思って作るよりも、ちゃんと自分たちがイメージできる人に届けようとするほうが、よっぽど熱がこもりやすいと思うんです。
それを別に話し合ったわけではないんですけど、できてくる曲は自然とそういうものが多くなっていました。

ヤマモトシンタロウ(Ba):僕はまさにその曲(“真実の泉”)のそのフレーズが好きで。音楽の聴き方が変わってきてより「1対1感」が強まっているなか、ライブをしていても、誰でも幸せにする曲ではなくて、手を差し出してくれる人に伝わる曲を今一番届けたいと思うようになって。
聴いてくれない人を無視するわけではないですけど、ちゃんと手を握り返してくれる人にしっかりと伝わるようにしたいというのが『心臓の居場所』で明確になりました。
それに、温かさとそのなかの痛みを表現するのはヒロキの歌詞の強みだと思うんですけど、自分たちが歳を取ってきたこともあってか、より小さい世界観で日常を感じ取れるものを作りたかったというか。
世界を小さくすることによって、痛みの感じ方によりリアリティーが増せばいいなっていう気持ちもありました。

カナタタケヒロ(Vo,Gt):歳を重ねるごとにさらに自分たちの責任を感じるようにもなって、ライブに来てくれる人を悲しませたくないし、そういう人たちには確実に俺たちの気持ちを届けていきたいという想いが乗っかってこのアルバムができたと思います。
俺としては、温もりや愛に繋がるメロディーを作る感覚を追究し続けてきて、この4人で導き出せた……とか言いつつ、まあ、また明日からも探し続けるんでしょうけど。

アサカワヒロ(Dr):テーマの感じがよくわかったのは、こないだの『Something New』で最後に“ただそこにある”をやったときで。
初めて演奏したんですけど、ちゃんと伝わってるなという感覚があったんです。自然と笑顔になってる人がたくさんいて、しっかり届いてることがステージからわかった。
そういう意味でも、ちゃんと温かさが詰まった、届きやすい曲になっているんだなと思えました。
 

―タイトル『KEITH』は、『命短し挑めよ己』から一緒に作業されているプロデューサー・涌井啓一さんが飼っている猫の名前だそうですね。

ヒロキ:そうです。制作場所にずっといて、いつも曲作りのあとは服が毛だらけになってました(笑)。
でもキースがおったおかげで、殺伐とした空気にはならんかったよな。

カナタ:そうね。なんか「気悪いな」と思っても、猫見たら気が和らぐもんな。

アサカワ:落ち着くよね。

カナタ:キースがどっか行ったら「あ、このメロディーはあかんねんな」とか、ソファーで寝てるときは「これいいんやな」って、判断基準にもなってました(笑)。

ヒロキ:「力の抜けた、30代のロック」というテーマも含まれているので、『NEW WORLD』『心臓の居場所』という言葉ほど肩肘張らない、余裕のあるタイトルを付けたいと思って、『KEITH』にしたところもあります。

ヤマモト:今は音楽を気軽に聴ける時代になっていて、それって、音楽が日常生活に寄ってきているということだと思うんですよ。
「8曲入り」ということにも繋がるんですけど、「渾身の1本の映画みたいなアルバム」より、「毎日聴けるような、30分ドラマみたいなアルバム」を作りたくて。
なので『KEITH』というタイトルにしたのも、あまり重たすぎずに、さらっと聴いてもらえるようなものにしたいなっていう。

ヒロキ:今回LEGOにとっては珍しく、6分や7分の曲がないんですよ。

カナタ:そう。そこも意識したんですよね、4分以内で作ろうって。

ヒロキ:イントロは何秒、とか、早くサビ来させよう、とかね。

ヤマモト:このアルバムの制作期間って、僕らもサブスクで音楽を聴くということに染まってきていて。サブスクって、サクッと再生ボタンが押せるしいろんなものが聴けるし、なんとなくよかったらそのまま聴いて、というところで、聴き終わったときに「大満足」というよりも「なんかよかったな」という感触が残る感じが僕は好きやったんです。
もしかしたらこういう感じが大事なのかもしれへんと思って。
それはタイム感だけの話ではないんですけど、その感覚は、その辺の時間に収まっていることで強調されるところがあるなと思いました。
そこを目指していくと、歌詞とかメロディーとかもどんどん凝縮されてシンプルなものになっていくんですよね。
長い時間をかけて言いたいことを伝えるのも大事ですけど、短いことで言いたいこと言いきれたほうが、よりメッセージ性は強まるなって。

 

配信リリースに踏み切った理由

 

―今回、CDはリリースせずに、「配信リリース」と決めたのは、いろんな選択肢や可能性を考えたうえでの大きな決断だったと思うのですが、その背景にはどういった想いがあったのでしょうか。

ヤマモト:僕らは全員CD世代で、CDはめっちゃ好きなんですよ。
でもサブスクや配信が流行っていて、自分も月額で音楽を聴くようになった時代で、「CDを作ってどう伝えたいの?」って考えたときに、「CDというパッケージとかフィジカルが好きやから作る」というのはちょっと違うなって思ったんですよね。
みんなが「CD売れませんね」って言ってるなかで、「ただ作りたかったから作りました」としか言えないのはかっこ悪いなって。
ライブ会場販売とか、なにか違った形でCDを作ろうかという話もあったんですけど、それやったら初めからCDを作ったほうがいいやん、ってところに戻ってきちゃって。
作らないなら作らないで振り切って、それを自分たちでやり切ってみたいなって。

ヒロキ:今は、曲や歌詞と同じくらい、リリースの仕方というが、そのバンドの佇まいやプロモーションの表し方のひとつだと思うんですけど、かっこよくありたい、というのは最低限守りたくて。
中途半端に会場限定とかをやるよりも、配信だけにするほうがよっぽど潔いなって思うんです。
俺らとしても今回はチャレンジやし実験的です。
「CDを作りたい」という以外でちゃんと理由が出てきたら、今後はCDをまた作るやろうし。発表後の賛否も届いてますしね。
一番目に入ってきたのは、目に見えないものにお金を払うのが不安だと感じる人がいるということで……でもそれを言い出したら、目に見えないものには対価がない、と捉えてるということでもあるからなあ……。

ヤマモト:正直、僕個人的には、「音源でお金取らんでええねんけど」って思ってるくらいなんですよ。
たくさん音源を売りたいという気持ちよりも、たくさんの人に聴いてほしいって気持ちのほうがどうしても強い。
極論、0円で音源を提供する代わりに数千万人が聴いてくれますよってなるんだったら、それでいいくらいで。
 

―配信リリースにするということに対して、メンバー間で意見が割れたりはなかったですか?

ヒロキ:LEGOのなかでも、サブスクを使ってるかそうじゃないかで、2対2でわかれてました。
ダイちゃん、「サブスクってどうするん〜?」って言ってたもんな。キンタも、最近ようやくSpotifyを契約してね。

カナタ:僕はずっとMTVとかCSでミュージックビデオを流しながら家でご飯食べたり、そういう生活をしていたので。
でもSpotifyをやってみたら、こっちで新作とか情報が入ってくるんやなって気がつきました。

アサカワ:僕も、別に抵抗はなかったです。Spotifyを無料会員としては使ってて、いつも「契約してください」って画面が出るたびに、「登録せなあかんな」と思ってたので(笑)。
僕はサブスクで手軽に聴ける部分もわかりつつ、今でもCDをレンタルしたり買ったりします。お店に行って見るという楽しさが残っていると思うから。
でも家に帰ると、嫁もそうなんですけど、携帯をそこらへんに置いて音楽流してる、というのが現実なので、今回の選択に抵抗はなかったですね。

カナタ:面白い時代になってきたねえ。

 

アルバムツアー『Cat Walk』について

 

―そうやって密に作ったアルバムを、5月からは全国8か所に届けに行くと。

カナタ:そう、今回結構本数が多くて。

ヒロキ:最近東名阪ばっかりで、広島とかめっちゃ久しぶりに行けるもんね。

 

―タイトルを『Cat Walk』にした理由は?

ヒロキ:キースって、猫のくせにめっちゃゆっくり動くんですよ。今回のツアーは「1歩1歩確実に行きます」っていう。いろんなところで会えたらええなと思います。
アルバムが8曲なので、新曲と過去曲のバランスがいい感じになって、いつものアルバムツアー以上に楽しんでもらえるはずだと思います。

カナタ:俺、不安やわあ……。


―え、どういう不安ですか?

カナタ:前の曲との相性、混ぜ方、伝え方、届かせ方……今までの延長線上というプレースタイルに、要素ひとつ多い感じはするんですよね。
これまでの俺たちと、『KEITH』までの変化を如実に伝えられるようなライブにしていきたいです。

ヒロキ:アルバムが30分くらいなので、何回も聴いてライブに来てほしいですね。