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LEGO BIG MORL 6th full album『KEITH』SPECIAL INTERVIEW(後編)

全曲解説

 

1.Time waits for no one

 

―1曲目“Time waits for no one”は、どういうところから生まれた曲でしょう?

タナカヒロキ(Gt):これは、2015年の『Something New』の1曲目にやってる曲なんですよ。そこから上積みがあって、深みが増した状態でレコーディングできたから、アルバムのトップバッターに指名しても頼り甲斐があるかなって。

ヤマモトシンタロウ(Ba):元ネタを作ったのは、ヒロキが事故ってるときなんです。そこから何度もアレンジが変わっていって、毎年大きくブラッシュアップしてたんですけど、アルバムに入れる機会を見失っていて。
今回、プロデューサーの涌井がデモを聴いたときに結構引っかかってくれて、「じゃあもう1回やってみようか」となって入りました。

カナタタケヒロ(Vo,Gt):『NEW WORLD』も『心臓の居場所』もデカいテーマでやってたから、ようやくアルバムがこの曲に近づいたのかな。


―歌詞はずっと同じだったんですか?

ヒロキ:そうだったと思います。今回のアルバムに合わせて書き直したとかはないです。


―この曲、13年目のLEGOが歌ってる感じがありますよね。さっき話してくださった環境の変化とかから、これからのLEGOの宣誓がアルバムの幕開けで鳴らされているように聴こえるというか。

ヒロキ:歌詞は昔に書いたものなので「そうです」とは言えないけど、そういう立ち位置として聴いてもらえるのは嬉しいですね。

カナタ:これ、ライブでやったらかっこええんちゃうかなあ。

ヒロキ:ライブで1回やってるし、いいイメージしか湧かないね。

 

2.Call me

 

―2曲目“Call me”は、LEGOとしては珍しいサウンドメイクになっていますよね。

ヤマモト:この1、2年は、バンドじゃなくてDJの人が作るトラックにすごくハマっていて。Spotifyで聴く音楽も、打ち込みベースでシンプルな短いものが多いなか、今一番やりたいトラックを作りました。
Aメロで細かいメロディーを歌うのも、今までLEGOになかったしいいんじゃないかなと思ってキンタに持っていって。最終的にはキンタがメロディーを作るし、ヒロキが歌詞書くし、打ち込みで作ってもダイちゃんが生ドラムも叩くし、LEGOらしさを保ちながら曲の変化を楽しめましたね。

カナタ:メロディーは、2人の関係性があって、お互いが会話をしながら高め合ってサビに突入するみたいなイメージで作れたらいいなというところもありました。

ヤマモト:その作業をしている時点で「電話」というアイデアが出てきて、これはヒロキに「電話」というテーマで歌詞書いてもらおうと。男女が立ち代わり歌えるくらいの感じというか。

ヒロキ:歌詞はアルバムのなかで一番難しかったです。キンタのメロディーにしては言葉数が多いし、しかも「電話」という指定があるし。近い距離をテーマにしたアルバムを作りながら、遠距離恋愛を書くのもまた面白いなと。


―ドラム、ビートに関してはいかがですか?

アサカワヒロ(Dr):生と打ち込みの両方が鳴ってますね。打ち込みの雰囲気も残しつつ、LEGOはバンドなのでちゃんと生感も足したい、でも打ち込みの世界観はなくしたくない、っていうのがあって。涌井ちゃんはもともとドラマーなんですよ。大体プロデューサーの人って歌とか歌詞に焦点寄る人が多いイメージがあったんですけど、涌井ちゃんはレコーディングでもドラムを録るときの熱量がハンパなくて。

ヤマモト:この曲のサウンドに関しては、新しいおもちゃを手に入れたらすぐに使いたくなるみたいな感じで、「必要だからやってる」というより「新しい機材でやってみたいからやってる」という部分もありますね。“母性”でも使っているんですけど、鍵盤を押すことによってハモリを作れる機械があって。後半とかサビとかで終始鳴ってる声のハモリは、キンタの声を使ってハモリを作り出してみたいな、この曲で使ってみたいなと思ったからやりました。

カナタ:僕としては、イントロのギターも「とうとうこういうことがやれたな」という感じがあります。

 

3.名前のない色

 

―“名前のない色”、これまた名曲が生まれましたね。

ヒロキ:この曲もリード曲候補だったんですよ。

カナタ:実は、もともと映画『デメキン』の主題歌の候補のひとつとして作っていたんです。映画のエンディングで流れてきてほしいなというイメージで。『デメキン』は山口義高監督のイメージとして、バイクの疾走感だったりエネルギーのぶつかり合いだったりが表現されているものがいいということで、“一秒のあいだ”になったんですけど。

ヒロキ:でも曲はめっちゃいいからアルバムに入れたいねって話になって、歌詞を書き直しました。もともとは男の友情感とかを書いてたんですけど、『デメキン』関係なく、キンタがこの曲を持ってきたら「こういうことが書きたいな」って思ったものを入れた感じです。メモ帳のなかでずっと昔からあったものを使ったりしながらブラッシュアップして。

カナタ:<君の頬の薄紅色>とか、5年前とかにメモ帳で見た気がする。

ヒロキ:何行かは、そうですね。前まではアンニュイな言葉を選ぶ傾向があったし、そういうのが合うサウンドメイクをしてたと思うんですけど、今回やっと満を持して使えたという感じかもしれないです。


―結婚をテーマにした曲というのも、LEGOにとっては新鮮ですよね。

ヤマモト:今回「結婚」をテーマに書いてほしいという話はしました。恋の歌はあるけど、ウェディングの曲はないなと思ったし、単純に30代半ばって結婚が身近になるじゃないですか。
僕は予定ないですけど(笑)。でも、そういうところを書くのは、年齢的にもそろそろリアルになっていいかなって思ったんです。
お花畑な感じじゃなくて、2人で分け合っていく、っていうのを表現したいなって。


―確かに、恋ではなく愛って、20代前半とかだとなかなかリアルに歌えないですよね。

ヒロキ:今でもわかってないけどなあ。

カナタ:70歳くらいになったらわかるのかなあ。

ヒロキ:まあ、でも、「多少はわかってるでしょ、あの頃よりは」というつもりで書いてます。ただ、悟った感じは出さないようにしました。あと俺のなかでは「輪廻感」も書いたつもりです。「添い遂げる」ということやと思うから、ある瞬間だけを描くよりは一緒に流れていく時代背景とかも書きたいなと思ったし、そのほうが僕とかLEGOっぽいなと思って。
 

4.命短し挑めよ己

 

—“命短し挑めよ己”に関して、これを読んでくださっている方々にはリリース時のインタビューをぜひ見てほしいなと思うのですが(https://www.legobigmorl.jp/contents/172669)。ライブでやる前は、「お客さんはどうのるんだろう?」といった話もされてましたが、実際、ライブでやってみてどうですか?

ヒロキ:ライブの雰囲気はすごくいいです。あのリズムがLEGOにとっては初めてな感じやったけど、やり始めたときから、フロアがすごくうねっていていい感じですね

カナタ:意外とライブ曲になったよね。新しいサウンドに挑戦している部分が大きかったから、どういう反応になるか不安なところもあったんですけど、「こんなに受け取ってくれるんや」という実感が持てました。

ヒロキ:新しいリズムにチャレンジした曲でもあるし、涌井と初めてやった曲でもあるので、LEGOにとってのターニングポイントになりましたね。
 

 


5.FESTA

 

―“FESTA”もライブで映える曲ですよね。

ヒロキ:これも4年前の『Something New』でやってるんです。アレンジは全然違いましたけど。

ヤマモト:今回、ラウドに寄った方向を突き詰めてみようってなったんですよね。これも涌井が、今まで自分たちがこの曲に対して見えていた景色とはちょっと違う方向性を示してくれて。この曲、ドロップDという低いチューニングでやってるんですけど、その感じはこれまであまりやってこなくて、こういうサウンドにキンタの声をのせてみたらどうなるんだろう? ということで。これもチャレンジであり、発見でした。

ヒロキ:歌詞に関しては、メロディーが強くてそれを支えるトラックが太いから、そこにあえて違うものをぶつけるのではなく、ちゃんとのっかる、という作詞方法の曲ですね。今回アルバム全体に爽やかなものが多いから、ちょっと汗かく感じ、蒸し暑い夜の感じを書きたいなと思ったところもありました。

カナタ:もともとはカーニバル的なリズムから作っていたんですよね。そういう要素はなくしたんですけど。

ヒロキ:そう、だから<Join to the festa>って言ってたりして。

アサカワ:最初、手拍子から始まってたもんね。


―それは、なんでなくしたんですか?

ヒロキ:俺らはずっとそこで止まってたのを、涌井が別の景色が見えたから1回手術してもらって、そしたら「この“FESTA”かっこいいね!」ってなって。

カナタ:ちょうどそのとき、THE MUSICを聴いていたんですよね。涌井も好きで、曲作りの合宿中に酒飲みながら暴れ狂って聴いていたんですよ。この曲はTHE MUSICみたいにスパイラルしてトランス状態になるようなものがありつつ、日本の歌謡曲っぽい要素もあって、いいブレンドになったなって。サビもマイナー調で、歌謡曲とか演歌とか日本のよき部分が上手く混ざり合ったなと思っています。

 

6.母性

 

―“母性”も、冒頭のミニマルな感じのサウンドもLEGOにとっては新しいし、“名前のない色”と同じように<恋が愛に変わりそうな時>を歌った曲ですね。

ヤマモト:頭のあの感じは僕も好きで。もともと全部打ち込みで作っていて、それをそのままバンドで表現するのは難しいなっていう葛藤がありながら、結果的に、サビではギターがしっかり目立ったりっていう、今の形になりました。

ヒロキ:これ、実は某アイドルユニットのために書き始めたんですけど、「この曲はLEGOでやりたい」って思ったんですよ。人にあげるのはもったいないなって思いながら歌詞を書いていて、キンタが歌うのも想像ができて。
若いアイドルのために書いたものだったら感情移入できてなかったと思うんですけど、自分より歳上の人たちが歌うのをイメージして作り始めていたので、歌詞を書きながら共感できた部分が多かったんだと思います。でも、そういうきっかけをもらわないと作らない曲だったなとは思いますね。

カナタ:この曲、歌うのしんどいです(笑)。もともと複数人で歌うイメージで作っていて、それを俺1人で歌うっていう……誰かと一緒に歌いたい気持ちなんですけど(笑)。
Aメロなんてずっと息継ぎなしで歌ってるようなもんですもん。

アサカワ:レコーディングのときもやばかったもんね。よう歌えてるな、って思ったわ。


―じゃあライブでは頑張って歌う姿のカナタさんが見れるってことですね。

カナタ:ずっと目がクシャってなりながら歌ってるでしょうね(笑)。

ヒロキ:エモさ満開でね。


7.一秒のあいだ(Album mix)

 

―“一秒のあいだ”は、シングルバージョンとどうミックスを変えたのでしょうか。

ヒロキ:今回、ミックスとマスタリングをロンドンでやったんですよ。メトロポリス・スタジオっていう、エド・シーランとかと同じところで。


―それは、どういう経緯だったんですか?

ヤマモト:涌井と同じチームでプロデュースユニット(binaural heads)を組んでいる『命短し挑めよ己』のときからやっていただいているエンジニアの渡辺敏広さんに「うち使ってよ」ってスタジオから連絡が来たらしくて、二人が「だったら、LEGOでやろう」って、他の案件もあるなか俺らを選んでくれたみたいで。

ヒロキ:現地には渡辺さんと涌井だけが行って、俺らは日本に残って朝の4時とかにやりとりをして。なかなか面白い経験でしたね。


―“一秒のあいだ”でいうと、どうミックスが変わりました?

ヒロキ:主観ですけど、分離がよくなったようには聴こえます。ギターとかシンセの音がダンゴになっていたものが、指通るようになったというか。

ヤマモト:“一秒のあいだ”は、他のアルバム曲と混ざったときにちゃんとしっかり聴けるように、というのも大きかったんですけど。シングルのときは、声を下げることによってロック感を増させて、音をぎゅっと壁みたいな感じにすることによって音像を逆にぼやかせてエモさを出すみたいなことをしていたんですけど、今回は他の曲と並んだときに聴こえやすくなるように、分離感とボーカルの強さを出したというところですかね。自分はどっちも好きです。

カナタ:曲順を考えるときに、“一秒のあいだ”をどういう立ち位置にするかはめちゃくちゃ悩んだんですよね。2曲目において、この曲でドンって掴むという考え方もできると思ったんですけど、この曲を聴いてると、最後には光が見えてくるというか、高揚感や救われる感じがあったので、アルバムのラストで「もう1回ひとつになろう」みたいな立ち位置になればいいなと思って。今までライブでやってきたのとはまた違う感覚で、この曲順を選んだなと思います。だからこれからのライブでは、前半とかではなく、そういう立ち位置で後半とかにやっていくような曲になるんじゃないかなって。それはアルバムを作ったからこその変化ですね。

 

8.ただそこにある

 

―そして最後に、リード曲“ただそこにある”です。

ヒロキ:これは唯一の詞先の曲ですね。曲作りの合宿はキンタとシンタロウの2人が先に行ってたんですけど、行く前に何曲か書いてた歌詞をまるまる渡して、そのなかでキンタがこれを選んでくれて。

カナタ:そのときはこの曲の一番の歌詞だけあったんですけど、何十個あるフレーズとか歌詞の断片を涌井と一緒に見ていたなかで、僕がヒットした言葉、歌詞の内容、世界観がこれで。選んでからすぐに作業に取り掛かりました。

ヒロキ:キンタの声とメロと歌詞が揃ったデモを聴いたときに、「間違いないな」って思いました。“あなたがいればいいのに”も詞先で、「あのパワーはなんなんやろうな」と思っていたときに、今回のアルバムにも詞先の曲が入っててもいいんじゃない? っていう話からこういう作り方をしたんですけど、やっぱりそういう力ってあるんやなって再確認できた曲です。


―この曲のメモとか断片は、どういうタイミングで書いたかって覚えてますか?

ヒロキ:なんやったかなあ……でも、これは昔ではないです。2018年のことですね。


―「自分のため」「誰かのため」というテーマは、『命短し挑めよ己』のリリースインタビューでも話していましたよね。

ヒロキ:「なにかのため」とか「なにが正しいか」とか、わからなくなってきているんですよ、いい意味で。自分のためでもいいし、変わっていいものだなとも思うし。理由や意味も、発生した瞬間はまだないっていう。あとから考えたり分析したりすると、「そうやな」ってなるのはもちろん理解できるんですけど。この曲のなかで、言葉としては矛盾していることがいっぱいあるんですけど、それが人間の状況やし、しゃーないやんっていう。そういうのを書けたなと思っています。優しいだけじゃない曲になってよかったなって。

ヤマモト:LEGOでこんなにも生活感がイメージできる曲ってないですからね。そういう生々しい表現も書ける年齢に、やっとなったんやなって思います。単純に甘い話だけじゃなくて、ヒロキ特有の生死観や矛盾感みたいなことがちゃんと上手く混ざってると思うんですよね。今までは、生死観とか矛盾感を書くと、世界観がどうしても大きくなる傾向があって。事故のこともあって、絶望感のなかから光を目指すって、日常生活ではたとえきれないことだったりもするので。それはそれでいいんですけど、今回は、日常生活の痛みとか人生で抱えている矛盾感を、生活と距離を近づけながら自分たちっぽく表現できたと思います。

ヒロキ:抽象的な言葉に逃げないっていうのは、『心臓の居場所』くらいからテーマで。たとえば「その先へ」とか「光」とかって書くときは、自分のなかでそれを書く理由があるようにというルールを設けるようになりました。


―そういった世界観のなかで、<なんのために生きているかなんて 一生わかりませんように>という2行がかなりグサっと刺さってきます。

ヒロキ:柴田(隆浩 / 忘れらんねえよ)も、そこがいいって言ってました。

カナタ:ま、俺のメロディーありきやけどな!

ヒロキ:キンタが終わりを変な感じにするな(笑)。

 

テキスト:矢島由佳子